レッドオーシャンで見つけたブルーホール⑨

第九話　美容室オープン

6月から物件を探しはじめた。低価格サロンで始めるならば席数12席で最低30坪は欲しい。低価格で売上を伸ばす為には、沢山のお客様に来てもらわないと成り立たない。天六駅から徒歩5分以内で、尚且つ坪単価が安い物件。路面店でなくてもいいにしろ、天六というエリアに限定して探すと中々条件に見合った物件は無かった。物件を探していくと同時に、給料体系やメニューの料金設定なども考えていく。まず、料金設定に関しては低価格サロンとして有名な店舗を参考にしつつ、美容師でない僕が今までいろんな美容室に通って得た独自の感覚で決めていった。給与設定に関しては、どの業界でもそうだが求人がハードルとなる。低価格サロンは高価格サロンや、ブランドサロンよりも美容師が集まりにくいと考えていたので、業務委託の歩合と正社員の給与は美容業界一にして、無名な美容室でも求人の応募が増えるように体系を作った。

徐々に店舗の仕組みが出来ていき、田中さんの紹介などで2,3人の美容師がオープン時に入社してくれそうだという事を聞くが、物件は見つからず時間だけが刻々と無駄に過ぎていった。

その期間中も株取引は続けており、11月の株取引では日別利益として、

11月4日+2,377,040円
11月5日－33,376円
11月6日＋3,082,857円（一日の取引としては最高利益）
11月7日－207,868円
11月10日＋1,307,389円
11月11日＋856,990円
11月12日＋2,687,674円
11月13日＋627,592円
11月14日－1,004,562円
11月17日＋583,976円
11月18日－20,901円
11月19日＋258,280円
11月20日＋280,573円
11月21日＋52,067円
11月25日－211,103円
11月26日＋634,006円
11月27日－554,223円
11月28日＋878,738円
手数料、金利、税引き後の手取り利益は、トレードを始めてから過去最高益の11,595,149円を出した。12月は調子に乗り相場と噛み合わず、12月8日から12月22日までの14日間でどんどんやられていき、750万円も負けてしまった。

それでも2014年はコツコツと利益を積み重ねていたので、
1月　＋2,229,409円
2月　＋454,552円
3月　－1,780,838円
4月　＋460,301円
5月　－1,267,947円
6月　＋3,358,693円
7月　＋1,157,681円
8月　＋3,774,120円
9月　＋5,153,898円
10月　＋307,673円
11月　＋11,595,149円
12月　－4,279,439円

と2014年の年間利益は、手数料、金利、税引き後の手取り金額で21,163,252円を残すことができた。株取引では順調に利益を出すも、数字を積み重ねるだけの人生は自分の中でマンネリ化していた。早く事業がしたい、誰かと作り上げる楽しさを共有したいという気持ちが日に日に増していたが、物件が見つからず気持ちばかりが焦っていた。もしかしてエリアを変えた方が良いのではないか？そんな事を思いながら、6カ月が過ぎ2014年が幕を閉じた。

2015年に入ってからも株取引をしながら毎月2,3回美容室に通い、顧客目線で様々な美容室の良いところ悪いところをメモしていき、僕の店がオープンした際はこれを取り入れようとか、こういう事は止めようとか、シャンプー台までの動線など、接客や内装について徹底的にリサーチしていった。

日経新聞から取材を受けたり、証券会社のHPに掲載されたりと、個人投資家として評価されていた。そうこうしていた3月、天六のとある飲食店が閉店した。天六駅徒歩1分の好立地で坪単価も安い。僕と田中さんは、「絶対にここしかない！！」と声を揃えた。

スケルトン(店舗の内装設備がない状態)ではあるが、家賃、大きさがピッタリだった。こういう希望の物件が出てくるまで何カ月でも待てるということも美容師でない経営者の強みだと後々知る事になった。どういうことかというと、通常美容師であれば今現在働いている店を辞めるタイミングで開業することが多い。自身が担当していた顧客を自店に集客する必要があり、退職から開業までの時間が空くほど顧客が離れてしまうリスクが増す。このため物件選びの時間は限られており、少なからず妥協を余儀なくされるからだ。

物件が決まってからは早かった。美容器具を決めていき、内装についても相見積もりをとって初期費用をなるべく安く押さえた。

前から声をかけていた田中さんの知り合いや求人で集まった美容師6人で2015年6月、待ちに待った美容室をオープンする目途がついた。

僕は美容室経営というレッドオーシャンに漕ぎ出そうとしていた。